母べえ顔

吉永小百合

山田洋次監督の最新作「母べぇ」を

銀座の映画館で観てきた。

昭和の家族ドラマだろう、くらいに思ってみたら、

戦争映画だった。

戦場や戦闘シーンはないんだけれど

「銃後」といわれる、一般人の日常生活も

しっかりと戦争づけなのだった。

割烹着を戦闘服の代わりにし

戦時の女性は常に生活と戦っていた。

吉永小百合サンは清楚でありながら

昭和の女性の強さと逞しさを

存分に演じきっていて、お釣りが来るくらいだった。

そして、互いを思いやる家族の情愛が

画面のそこかしこにほとばしって、

とても涙なしでスクリーンを正視できない。

暗くて辛い時代に反比例するように情愛が輝く。

映画が終わって、ぐったりとして外に出てみると

焼け野原だったはずの場所には

ハリウッドSF映画のような都市の夜景が広がっていた。

灯火管制、言論弾圧、相互監視

あんな時代に生まれないで良かったと

つくづく思いながら、ふと、広大なネオン街に

猛烈な寒々しさを感じた。

それはきっと、さっきまで映画館全体に広がって

客席を包んでいた、「母べぇ」のぬくもりのせいだろうなあ。

物欲社会の対極にあるもの。




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